我慢なら無いので全てぶちまける

最初、「今年の新人は使えなくてねぇ…」という風聞だけ聞いていた。
よほどのお馬鹿ちゃんなのか、それともセンスが悪いのか、俺には解ってなかったし、俺がそれを理解する必要は無いと思っていた。
# きちんとOJT担当が居るわけだし…。

ある日ある時、その新人が外に出されるとなった。
何も実情を知らなかった俺は、彼の現状を営業から聞かされ、冷汗をかいた。
「これで駄目ならこいつクビだ」
まず、営業からそんな言葉が出てくるはずが無い。いや、まだ営業が言っているだけなら「はいはい。君に権限無いけど」で済む。
しかし、あたかも「組織の決定事項」であるかのように言われれば、話は別だ。

俺は新人に対して、パソコンの経験値自体が足りていない事に恐怖を覚えた。
これは個体差があるのですぐに伸ばせる物じゃない。
なので、「決められた範囲のレベルであれば習得できるんじゃないか」という事を宿題として提示してみた。

一つはタイプ速度。
キーを探す時間が減るだけで,だいぶ速度は上がる。
その為には、画面を見ずにただ文字を高速で打ち続けることを繰り返すしかない。
例えば「TYU」の順で入力すれば、「ちゅ」となる。
「どのキーを、どの順番で打ったかが解る=ブラインドタッチ」である。
その実現の為には、JISキーボードのキーマップを覚える必要がある。
反復練習しかない。逆に、反復練習で、高速化する余地はある。
これはいけるかもしれない、と思った。
むしろ、これだけ頑張ってくれ、とも思った。
早く打てるなら、早く打ちなおせる。
いまが最もTry&Errorが繰り返される時期のはずだ。
そこで繰り返せる回数が多ければ多いほど、プログラマー経験値は貯まっていく。
貯めようとするかどうかは、別問題だが。

もう一つは検索能力をつけること。
何も知らないのであれば、辞書の引き方を教えておこうと思った。
辞書が引ければ、解らない事があっても調べにいける。それで解らなくとも、調べ方が悪いと思うんだけど自分ではこれ以上調べられない、と言うエクスキューズにもなる。
後々必須のスキルというか感覚でもあるし、これは俺的に外せなかった。

最後はエクセルで決められたフォーマットの帳票を作れるようになる事。
左端のカラムは連番で。最上段のロウはヘッダーで。
後は全部に罫線が入っているだけ。
それを5分で作れれば、それを転用してちょっとしたリストならすぐ作れるだろう、と。
でそのレベルで良いだろう、と。そもそも、それ以上エクセルを使える、となったら、エクセルの機能群をどれだけ知っているか、と言うことでしかない。
それを作れるようになる過程で、Officeのヘルプ機能の使い方(キーワードの当て方)の取っ掛かりが得られれば良いと思った。

そして彼は面談に行った。

次の日、やっぱり心配になって、検索能力は捨てて、タイプ速度の向上と、エクセルの提携フォーマットの二つに絞るように連絡した。
彼はそれに邁進しているもんだと思っていた。


昨日、真実を聞かされた。
全て、デマ、誇大表現、自己中心的な解釈でしかなかったのだ。
情報産業に携わる人間として、過度のバイアスをかけて人に伝達する事がどれだけ罪悪か。
ビジネス上、あらゆる情報はプレーンに伝達されるべきであって、伝達された後にオフレコでのみ、解析/解釈/推論レベルの会話をする事だけが許される。
それを、その最大の大前提を、覆すのか、と。


はっきり言う。あの営業は、人として最低だ。
そして、俺も、最低だ。
悔しい。
あんな奴の言葉を真に受けたという事実が、本当に悔しい。
件の彼は、今後温かい目で見続けていこうと誓った。
少なくとも、新人で無くなるまでは。

話は変わるが、俺の居る職場では、MSNでのやり取りが推奨されている。
打ち合わせ中の人に高いレスポンスが貰えたりするからだ。
そのMSNに、営業が入っている。
業務連絡などで使うから、と言う理由で登録していた。
業務連絡というか、相談であったり、上記のような無茶な話であったりでしかなかったので、不要だと思っていた。


今朝方立ち上がってきた営業のポップを見て、吐き気がした。


直ちに営業を禁止メンバーにほおりこんだ。


そもそも他部署の人だ。
今後業務連絡は、それ相応の手段で取ってきてもらおうか。
また、本社のネットワーク上でMSNの使用は禁止されている。
後は言わずもがな。